当講座は、バッハの教会カンタータを一曲ずつ、その歌詞の意味、コラール、歌詞と当該の日曜日に礼拝で朗読される聖句との関わり、様々なバッハの和声、旋律法といった作曲技法、言葉と音楽の関係、音楽修辞的なアイディアの数々、時代背景など、多様な視点からバッハのカンタータを詳しく学ぶことを目標としています。
新年度はライプツィヒ時代初年度である1723年8月22日に初演された三位一体節後第13日曜日用のカンタータ《汝の主なる神を愛すべし Du sollt Gott, deinen Herren, lieben》BWV77から開始します。 拡大カノンを用いた見事な冒頭合唱とソプラノとアルトによる2曲の美しいアリアは、いずれも律法と愛をテーマとした知られざる名曲と言えるでしょう。 BWV77に続き、ライプツィヒ時代初年度のカンタータを初演順に取り上げ、3本のトロンボーンと3本のリコーダーという今日では信じがたい編成で有名なコラール「わが心からの望み Herzlich tut mich verlangen」の旋律を奏する合唱で開始される《汝の怒りによりてわが肉体には全きところなく Es ist nichts Gesundes an meinem Leibe》BWV25、4本のトランペットとティンパニ、2本のリコーダーとオーボエをともなう壮麗なフランス風序曲として書かれた冒頭合唱に導かれる市参事会員交代式用カンタータ《エルサレムよ、主を讃えよPreise, Jerusalem, den Herrn》BWV119、コラールとレチタティーヴォを組み合わせる試みが冒頭合唱と最初のアリアでなされた《汝なにゆえにうなだるるや、わが心よ Warum berbst du dich, mein Herz》BWV138、さらに《キリストこそわが生命 Christus, der ist mein Leben》BWV95、《その御名にふさわしき栄光を主に捧げまつれ Bringet dem Herrn Ehre seines Namens》BWV148と晩夏から初秋に演奏されたカンタータまで進めればと考えています。
これらの素晴らしい音楽の数々が、暗くゆがんで重苦しい空気の漂う今日の我が国においても、ただ単に美しい音楽であるということを超え、聖書に根ざした歌詞の言葉と音楽とを通じて我々の心の一番奥深いところに働きかける器であることを、ゆっくりと時間をかけながら少しずつ解き明かしてゆきます。 バッハの音楽を愛し関心を持つ方を始め、バロック音楽のみならず聖書と音楽に関心を持つ方、広く古楽を愛する方々の参加を心よりお待ちしています。